紹介

だれもが、自分のことを「幸福な料理人」と思えるように。

この本は1984年に受けたインタビューを文字に直したものです。もしも今、ひとりの若い人を、ありったけの精魂をこめて、料理人に育て上げるとしたら、日々の仕事のなかで、こんな話をするかもしれない。そして、こういう話ができたら、うれしいと思う。(木沢武男)

だれもが自分のことを幸福な料理人と思えるように

本書は『料理人の職業ガイドブック』です。わが国の西洋料理界を代表し、ホテル料理長として、数多くの料理人を育てた著者が、豊富な経験と、現代の望ましい料理人像を語ります。いまの時代、いろいろな人が、いろいろな角度から「料理」というものをながめています。時々きかれるのは、「料理人は、なにを、どう考えるものなのか・・・」「良い料理人とは、どこがどう良いのか・・・」「ひと皿の料理、一枚のメニュー、それをきめる理由とは・・・」これら「料理人の実態って、なんだろう」というクエスチョンに、この本は、かなりのところまで答えられるように思います。ここにあるのは、たんなる個人の意見でなく、洋食の料理界につたわる職業上の方法論でもあるし、人間の知恵でもあるし、脈々と流れる、料理人としての意識でもあります。

これらを、調理場でない部所の人に、食品関係の人に、とりわけ料理人をマネージメントする立場の人に、知ってもらえれば、と考えていました。洋食という、おなじものを追いもとめる者の間では、人によって、場所によって、反転するほどのちがいは生じないはずです。 この本は料理の作り方ではなく、料理人を通してものごとを見たときの「料理人として、どうあるべきか」であるし、また料理界の潮流についてでもあります。

「若き料理人へ」「料理人の五感」「メニューの前に」「料理番」「メニューをつくる」「献立表」「モノローグ (時代的変化) 」を1冊にまとめた新装本です。料理について何も知らない人が、この職業を選んで、調理場に入って、学んで、育って、道を登っていく過程。基本的なメニューの作り方から昼食会、婚礼、ビュッフェなど実例メニューが解説されます。ホテル、レストラン、フードサービス業、ならびに料理専門学校などで幅広く利用されています。優れた料理人の育成と料理人に対する理解を深める意味で、新入社員の方々から管理職の方々まで、広くお薦めします。

はじめに

へスティアは、公私のかまどを司るギリシアの女神。公にはオリンピアの聖火を、私には家々のかまどを。われわれの調理場は、その公私一体。すなわち、人の命にたずさわる、聖なる煮炊きの火を受けつぐところ。いまの時代、いろいろな人がいろいろな角度から、料理というものをながめています。

時々、きかれるのは、「料理人とは、なにを、どう、考えるものなのか」「ひと皿の料理、一枚のメニュー。それを決める理由とは」これら「料理人の実態って、なんだろう」というクエスチョンに、この本は、かなりのところまで答えられるように思います。ここにあるのは、たんなる個人の意見でなく、料理界に伝わる方法論でもあるし、人間の知恵でもあるし、また、脈々とながれる料理人としての意識でもあります。

これを、調理場以外の人に、とりわけ料理人をマネージメントする立場の人に、知ってもらう機会があれば、と長いあいだ考えていました。料理人の職業というのは、結局のところ、「ものを食べやすくして、人によろこびをあたえ、健康管理をして、病人をつくらない」これが基礎的な、ものの考えかたで、これ以上のなにものもないです。

しかし、これを基本としながらも、この基本を満たすのと、「その人が、はたして料理人としてどうか」とは、また、べつの問題です。若い人が、ときどき言うには、「おやじさん、このソースは、どれくらい、おいしくすればいいんですか?」「おいしい」ということは、何によって測るのか?「これが良い状態のものだ」というモデルを、舌に積みかさね、記憶にしまい込み、それを記憶から取りだして、手と舌で再現すること、これが、料理人のもつ「料理の能力」であり、そこにみちびくのが、日々の仕事としてのトレーニングです。

そのなかで、おいしさの尺度をふくめて、料理人としての五感の完成に近づいていく。だから「どれくらい?」ときかれて、「これくらい」とは答えられない。目に見えるモノサシでもあって、それを当てれば「上がったよ。おいしくなったよ」なら、ほんとうに簡単です。たしかに「味」を分析することはできますよ。ボーメ計で糖度や塩度を、酸度計で酸度を、というように測ればいい。しかし、これをいちいちやっていたのでは、料理人の仕事は、間に合わない。

それに、「どれくらい?」ときかなければならない人に、その段階では教えられない、ということもある。「このくらい」と答えたら、その答えを理解できる段階にあれば、まずは「どれくらい」とはたずねないものだ。口で言えず、目にも見えないものを、肌でおぼえるのが料理人です。

料理人と仕事

料理人と仕事

A5版軽装
総704ページ
木沢 武男 著
発行 : 有)モーリス・カンパニー